郷里熊本での制作活動

杉 英行

諸事情により長年にわたり制作活動の拠点でもあり生活の場でもあった横浜から郷里熊本に引越したのは、3年前2016 年4月でした。それは熊本地震のあった年です。しかも引越し2日後の事でした。大きな揺れで段ボールに入ったまま積み上げてあった引越し荷物は崩れ落ち、家の壁の一部が剥離して落ちた程度で建物に大きな被害が無かったのは幸いでした。

50 年間郷里を離れて暮らしていたので、友人知人はわずかで浦島太郎状態でした。余震の続く中で日々非常に不安でした。しかしとにかく制作場所を確保する必要があり、また地元の美術関係者との繋がりを持つように積極的に動きました。おかげて元サッシ工場跡(75 坪)を格安で借りることが出来、又楠の原木も入手出来ました。高校時代の美術部後輩の協力のお陰で、予想より早く引越し3か月後に制作再開が出来るようになりました。

早速大きな作品に取り掛かり、その年の自由美術展に出品予定していました。「カオスから浮上する方舟」(写真)です。8月末には完成しましたが、東京まで運んでくれる宅配業者がなく、美術工芸品は取り扱わないという事でした。大きくて重いものもダメという事です。作品は180 × 45 × 85cm 重量200kg 位というもので、ある運送会社では引越し便で1台チャーターする形なら運ぶという事でした。その場合片道50 万円との事でした。地方に来て東京まで作品を送ることの大変さが初めてわかりました。同じ熊本の立体部会員の藤山氏に聞いたら、年々大きさの制限が厳しくなり、分解してコンパクトに梱包し、美術品としてではなく他の品名で送るそうです。展示作業の時現場で組み立てることになります。しかし作品の制作意図やイメージと合わない場合敢えてそれに合わせて変更するつもりはなく、その年は出品をあきらめた次第です。天草の鉄の作品を出している辻本さんは自分で運んだそうです。結局大きな作品を出品する場合、自分で運ぶしかないようです。今後の課題でもあります。

さて、もういっぽうで地元での美術活動も行おうと県美術展出品を考えましたが、地震の被害で県立美術館の補修工事のためその年は開かれないとの事で、住んでいる八代市の八美展に他の作品2点出品しました。受賞と会員推挙となり会員として活動しています。県美術展には2018 年自由美術展に出品予定して出せずお蔵入りとなっていた「カオスから浮上する方舟」を出品し県美大賞を受賞しました。八美展出品を機会に知り合った日本画の女性と2018 年8月に結婚し、今年4月に八代市立博物館未来の森ミユージアムで2人展を行いました。6日間の会期中1,171 人の入場者があり、大盛況でした。昨年からは宮崎国際現代彫刻空港展に出品し、また県美術家連盟に推薦してくれる方があって、美術家連盟展にも出品するなど活動の幅を広げています。引越した当初心細く不安でいっぱいでしたが、地方の美術展を通して沢山の知人友人を得て、搬入搬出の手伝いや材料の木材を頂いたり色々な面で助けてもらって感謝しています。

2人展はNHKテレビの熊本版ニュースで取り上げてもらったり、県美グランプリの際は熊日新聞に大きく載せていただいたり、やっと郷里に馴染んできたかなと思う今日この頃です。これからも身体が動く限り日々コツコツと制作に励んでいきます。

2019 年6月

 

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