展覧会より

心うつ 10 年の画業

手島邦夫

深井克美展  2019年2月5日㈫~3月21日㈭  北海道立近代美術館

深井克美の生誕70 年、没後40 年を記念する展覧会が札幌の北海道立近代美術館で開かれた。深井作品をまとめて見るのは、1998 年練馬区立美術館での「神田日勝・深井克美展」以来のことである。

深井の自由美術展への出品は、36 回展(1972)から42 回展(1978)の7年間と短い。当時はベトナム戦争の終結(1975)、ロッキード事件(1976)など国内外の大きく揺れ動いた時代であった。また旧都美術館が解体され新館が開館した時(1975)でもある。

深井は37 回自由美術展に「バラード」「黄昏」を出品、会員に推挙される。「バラード」は細密な点描により、生きる痛みをとおしての青年の憧れを唄った初期の代表作。会場にはそれより以前、武蔵野美術学園時代の作と思われる生別した妹の肖像「女の顔」があった。

「サイキ」「タキオン」(1974)、「旅への誘い」「時の流れ」「無題」(1975)、「U」「2時37 分」(1976)と続く。久しぶりに「オリオン」(1977)の前に立った時、麻生三郎の「ひとり」(1951)を思い出した。戦後間もない社会状況を抱きあう二人に形象化した作品。それに対して「オリオン」は金属や木片のような無機的なものに変化してゆく二人の上から静かに光がふりそそいでいる痛ましい祈りの絵画。

1977 年8月で母校の実習助手を退職し、新しい環境の中での制作を開始。それまでの自己の奥深く沈潜する作風から外へ開かれた仕事へと大きく転換を模索しはじめたその途上で斃れた。

あえて描く臓腑のようなもの、異形のものの描写の間から染み出してくる清らかな光。それは素描・習作などによる周到な準備と西洋古典絵画の技法の研究によって裏付けられている。

会場には西八郎、藤林叡三の作品も展示されていた。西作品は「食事のあと」「辺土」(1968)、「声」(1973)など6点、藤林作品は「窓による鳥」(1970)、「セーヘルス的風景による表現的ヴィジョン」「海からの微風」(1971)の3点。

この部屋のはりつめた空気は尋常でなく、しばらくそこを立ち去ることができなった。

冬空高く大きな星が3つ、久しぶりに邂逅して瞬きあっているのを見た。(敬称略)

pdf.svg 展覧会パンフレット

 

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