U展の43 年

加藤義雄

 

この文を書いている1 週間ほど前U展の仲間と飲んだが、それがもう半年前の飲み会のように思える。とくに最近は時間が遠ざかる速度がいやに早い。ところが遠い昔のことは、そんなに遠ざかっていない。鮮明な記憶が残って自分の中の1 ページを飾る。若い時代は感じる力が強いからであろうか。

43 年前の創立のとき、参加者全員が浦和会館に集まった時自分は「オオオー」と声を上げた。それは仲間の女性陣がまれに見る美人ぞろいだったためだ。若かったからでなくタイプの女性ばかりで、幸運をさずかったようでうれしかった。その時、故田所さんがこう言った。「カトーさんが喜ぶと思って人選した」と。今はこういう言動はツツシマナイトいけないとはさびしいことである。そのあとも不思議といわゆる閨秀作家が変わるがわる参加してくれた。そのハナヤギが43 年間のU展を支えた。

ところでこの43 年間で一番大変な思いをしたのはやはり3.11 の東北大震災であった。U展は3 月~ 4 月の展示スケジュールのためすでに案内ハガキ・ポスターなど発送ずみで、中止の応対がむずかしかった。出品者へ中止決定の通知や、主な来館者にも中止のハガキを送付したりでなんと18 万円の赤字を出し、泣いた。

大地震はやむを得ないとしても、原発事故で美術館が開けないというのは納得いかなくて、天然ボケの自分もこの時は天を仰いだ。

もう一つ、どこかで書いたかもしれないが忘れられないことがある。2006 年の多摩信ギャラリーでの林ヒサさんの遺作展である。田所さんが全作品を貰い受け、水街道のトイレの水も出ないぼろマンション(水街道で水が出ないのです)に収納。会場への搬入直前に田所さんが倒れて、急遽故原田映爾さんに運送を頼んだが、集合の南浦和駅前に1 時間待ったが車がこない。電話も通じない。小雪まじりの寒い日で、後日彼は雪が降り出し中止と思ったと言った。2 ~ 3 日して連絡がとれ、水街道に出かけたが雪がマンション前に残り滑った。風がとても強くて、100 号の作品を何点も3 階のせまい階段を降ろして飛ばされそうになりながら車に載せるのに往生した。展覧会は自由多摩グループの皆さんの協力で成功した。

1999 年、テレビ埼玉の「美術の窓」という2時間番組でU展の全作品を放映してくれた。その冒頭でU展の紹介と挨拶をした。まだ田所さんや石川さんも元気だったが、自分がやることになった。テレビで3 分間話をするのがこんなに大変だったとは知らなかった。

原稿を書いて控室で何人かの仲間を前に暗記した。励まされてカメラの前に立ったが案の定上がってしまった。2 つ下の弟がビデオを見て「ふだんペラペラあることないこと調子に乗っている人間が、まったく肝心なときダメなんだからヨシオは!」と嘆いた。しかし世の中はおもしろいもので、故赤木さんがそのビデオを見て「しらなかったよ、カトーさん、ほんとは真面目な人なんだ」と言って「自由の本展の会計をやってもらいたい」とオダテラレて引き受けてしまった。そのあと展覧会部長も引き受けてしまった。

U展で、いつごろから合評会を開くようになったかは定かではないが、上原二郎さんと原田映爾さんが元気なころは、ハニコロモヲキセヌ話しぶりに女性の出品者が泣き出したことがあった。自分が司会をやっていたのでよく覚えているが、「だいじょうぶ。作品について話しているので、貴女が悪いわけではないヨ」と取りもってみたが、ヤメテヤルと云い出したらどうしようと心配した。しかし今はそれも懐かしく、逆に自分を鬼にして(していたかどうかわからないけど)まで自分が感じたことを卒直に発言することはとても勇気がいることだ。

現代ではソンタクとか空気を読むとかがハヤリのようで、自由美術もそのハヤリヤマイにかかり何か無風にただようような感じである。

43 年間にはここに書けないこともあったことを述べるにとどめて、報告かたがた思い出というか記憶の断片を書きとめた。

今回の埼玉での展示においでくださった自由美術の幹部の方々から「もったいない。こんないい展覧会を終わりにするなんて」とおシカリを受けた。やはり展示を見て仲間の若い人たちには続けたいの声もあり、まとめてくれる人の出現を待っているところだ。

作品集の中のあいさつで述べたが、自分自身を含め体力の限界がみえてきて、本展出品作もおぼつかないようであるが、最後に本音を白状すればU展の加藤一党体制を一度解体して新しい風が吹くこと願ってのことだとキレイゴトをならべて終りにします。永い間、ありがとうございました。

生誕70 年・没後40 年記念

深井克美展

会期 2019年2月5日㈫~3月21日(木・祝)

会場 北海道立近代美術館
   札幌市中央区北1条西17
   TEL 011-644-6882

観覧料 一般1,000(800)円。高、大生600(400)円
    小、中学生300(200)円  ( )内は割引料金

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