田中・阿久津 2人の作品を見て

永畑 隆男

tanaka.jpg
田 中 敬 子

田中敬子さんの作品について

今年の平面の佳作賞展は5人の作家が選ばれました。そのうち2人が版画であったためか全体的にみると小さめな作品が多かった中、田中さんの作品はS 30 号が2点で大きく、色彩的にも華やかでした。どちらも同じ大きさなのですが左の作品の方が大きく見え好ましく思えました。それは、色面の形が右の作品と比べて大きく、色彩が豊かで、赤、黄、緑の3原色のほかにも、紫、白などの色が心地好く表現されていたからでしようか。近くで見ると、やや乱暴とも思える筆使いや、濁った色使いが少し距離を置いてみたとき不思議な魅力をかもしだしているのです。作者はその辺のことを十分心得ておられたのでしょうか。また色面のほかにも線が自由、大胆に描かれていて、見ているうちにジャズか現代音楽が聞こえてくるようでした。題名は「フラワー・オブ・ライフ」とありました。花に託して生命や人生の深みを表現されたのでしょうか。

右側の作品は紫が画面の左下を大きく占めていて絵を小さくさせているように感じます。ただ、感じ方は人それぞれで、こちらのほうが丁寧に描かれていて、好ましいと評価される方も多くいました。今年の本展で田中さんの作品に会えるのを今から楽しみにしています。

akutsu1.jpg
阿久津 隆       「上流」
akutsu2.jpg
    阿久津 隆       「下流」
阿久津隆さんの作品について

今年、佳作賞展のオープニングパーティーの会場で小耳にはさんだのは、阿久津さんの作品について「まるで別人の作品みたいだ」とか、「本展の作品の方が良かったと思う」といった言葉でした。彼の作品に関心を寄せている人が多いのだと思い、昨年はどんな作品だったのかが気になりました。そんな時、編集担当者が、出来上がったばかりの機関誌を持って来たというので早速見せてもらい確認したところ、「遺伝子突然変異」と題されていた。それは、作者の名前こそ忘れていましたが、作品は私の記憶にもはっきりと残っていました。巨大化した蚕の幼虫とも変色したアザラシのようにもみえる生物の背中にやはり巨大化した蜂ともハエともみえる得体のしれない生物が張り付いているシュールな作品で、とても印象的でした。そして先ほど誰かが話していた「まるで別人」の意味がようやく理解できました。私自身も、個展をやるたびに作品の傾向が変わる事もあるので、変わるということに対してはむしろ好意的な気持ちでいます。何が彼をここまで変えたのかが気になるし、それだけ関心を持って観てもらえるのではないでしょうか。ただ、残念な事にそんな興味がありながら、私は先にも述べた通り彼の今までの作品を知らないため、そのあたりを深めることもできず、もしかしたら的外れの、感想文程度のことしか書けないということを先にお断りしておきます。

さて前置きが長くなりました。今回の佳作賞展の作品は「上流」と「下流」と題されたS 20 号が2点で、共に表現方法が独創的でした。「上流」の方は画面の右上から左下に向かって勢い良く流れ出る水のような動きがあり、左上から右下にむかって観れば、青い砂漠に風紋が描かれていくような不思議な時間を感じました。

また、「下流」の方は、これまた平凡な見方ではありますが、深い宇宙空間に散らばる無数の星の中から、何かの意図で選ばれたものが、色彩を得て存在し、見るものに問いかけているようにも思えました。

本人から制作の方法について伺ったところ、「ポスターカラーを水で溶き、テレピン油を垂らして刷毛で一気に描く」という技法で、刷毛の中に生まれる米粒以下の細かな泡が表現できるのだそうです。それはその時限りの偶然に左右されるのではとも思うのですが、もしかしたら阿久津さんは、そんな偶然を積み重ねながら、限りなく必然に近い表現を、もうつかみ取っておられるのかもしれません。いずれにせよ、多才な作家であることは間違いないと思います。外野の声はそれとして、今後もご自分の表現に自信を持ち、変わる事を恐れず新たな作品を生み出していかれることを願っています。

▲TOP