今、そして、次の一作へ

森 田 慶 子

05.jpg森田慶子

年が明けて間もない頃、「東京自由美術展に出品しませんか」と誘っていただく。一人、250cmの壁面を使えるそうで、模索中の2点を出品することにした。会場で絵を見たい、皆さんの話を聞きたい、そして私自身の更なる歩みにしたい、そんな思いであった。」

5月27日、羽田行きの飛行機に乗る。もうすぐ着陸という時、機長のアナウンスがあった。「大韓機のエンジントラブルで空港は閉鎖されました。秋田空港に戻ります」と。ハプニングに驚きつつも、この波風が何か新しいものを感じさせてくれる気がした。

翌日、列車で上野へ。公園口から人の多さにびっくり、都美術館に行くのに人の間を潜るように歩いた。文化会館前では野外コンサート、西洋美術館前には世界遺産登録ののぼり、動物園の方から出てくる人、向かう人・・・。私にとっては、日々のゆるやかな生活と違い生気ある上野の森であった。

懐かしの美術館に入る。出品者は88名、作品124点が展示されていた。もう本展を見据えそのまま出品できそうな作品や、実験的な意欲作、4点を縦に並べたユニークな展示、平面と立体もうまく調和していた。

今回が初めてという作品研究会には、25名が集まり、参加者全員の合評会となった。会員同士の批評会は「意欲的に制作意図を語り、問い合い、刺激的でしかも画期的な場であった。」

私の出品作P100縦は、赤が基調で、画面の中央にアンフォルメルと具象が混在し、上1/3が黒、その中に緑のストライプの構図である。真ん中のものと周りが乖離しないようマチエールを工夫する。P60横は、三つの異質なフォルムを三角形に配置する。リズム感を出すのに水性ペイントを使い、余白と一体化させるため、ピンクやグレーで重ね塗りをする。合評会では、赤とピンクに不安を感ずるとの指摘をいただき、今後の課題にしたいと思った。また、衝撃的とかカラリストとか、共感してもらったところには少しほっとする。

合表会が終わり、自作の前に立っていたら、背後から「個展をやるといいよ。パターンが4つあるので面白いよ」との声。これまで本展の絵を覚えてのお言葉と思い、嬉しかった。

制作していると、時々呪縛にかかったように、次の作品は前よりもよくしたいと肩に力が入ってしまう。結果、動きのない硬い絵になりがちである。今回の出品作のようにあまりやり方を決めてかからずに大胆に描いていこう、そうすれば、生き生きした不可思議な世界を表すことができるのではと思った。

東京自由美術展への参加は、改めて次の一作を意識する貴重な日となった。