相互批評

小林成行・一ノ澤文夫

「I氏の青緑」小林成行

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一ノ澤文夫:「景」

彼の事で知っていることといえば、岩手県出身で、三つか四つ年下で、若い時代から自由美術に係わっている。その程度しか知らない、作品とのお付き合いは長いし、ご本人は二十数年前からの顔見知りだが、二人きりで酒をのんだりお話したりなどなかった。その様な時を持たなかった事が不思議である。自由美術展では控えめで、ま正面にはいないが強く印象を残す。いつも彼の作品の前で、足が止まる、繊細でさわやかな寒色系の色彩と頑丈で揺るがない構成は、心ときめく。人の絵を見ていると、ややもすると、自分なりに色を付けたり、線を入れてしまうものだが、作品はそのような不遜な態度を制止し静かな低い声で語り始める。矩形や色を使い空間をシャープに作る。画面のボリューム感、深みは、ベニヤ板やペンキ類を使っているにもかかわらずどうして出るのだろうか。謎だ、そして、引き込まれる透明感、すべてが彼の自画像のように日々を語る。

今回の自由美術展の「景」では“思考する緑”が画面に様々な曲線を生み、奥深くに回帰してゆく。そして、「何千、何百もの明度彩度の異なる緑が心地よく存在し、観る者の心を満たしていく

一見穏やかな画面からは、真摯なまでの構図やマチェールへの追求が読み取れる、生きている小さな感情、世界に語る、静かだが強烈な問いかけ」

正に、一ノ澤文夫氏の日常が描き出されている。

小林成行さんの「偽りの神話」を見て 一ノ澤文夫

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小林成行:「偽りの神話」

六月に小林さんの作品についての文章の依頼を頂きました。小林さんとは多くのグループ展で御一緒させて頂いております。

20年位前、埼玉のU展が最初の頃だと思います。それからは本展を含め、炎展、千駄木画廊のアールデサンブル展、新しい所では、新宿、絵夢ギャラリーの自由美術14人展、等沢山の制作を拝見させてもらいました。

第一印象は誠実な制作をされている方だと思いました。いまだにその気持ちは変わりなくあります。眼と心の観察から模索作業を通し、それに触れながら、描いては消し、ゆっくり関係をつめていく仕事に思います。

今回の本展の作品(「偽りの神話」2014年自由美術展)については、テーブルの上の新聞、金魚、玉子のような日常のものがどんどん変化、破壊され、拒絶、拡散、混沌、それが自然に流れ、有機的に、エロチックに再構築されているように思います。その時間の中に小林さんのつぶやきが聞こえてくる様な気がします。それは日々のいのちの運動に通じるものであり、新しいとか、古いとかではなく、作者の現在がそこにあると思います。そしてこの6月、銀座シロタ画廊の二人展を拝見致しましたが、ひさびさにまとまった点数が並んでおり、より一層その思いははっきりしました。大作も小品も軌跡として連綿とつながっているその大きな流れはとても強い存在感を感じました。

画家ブラン、ヴァン、ヴェルデをモデルにした好きな詩の一節です。

「流出 喪失 峻厳 断念 憔燥 緊張 悔恨 フォルムが生まれようとする ためらう 現われ出る 疑いに足をとられる ふたたび始まる 変質する 構造を持つ そして不意にはずれる 消える また現われ出る 別のものとなって 顔を粗く描き出す 顔を持たないものの顔を ふたたび消える ふたたび現われる 新しい空間を展げて 新しいリズム 新しい目を求めて………略」

小林さんの作品には似た匂いを感じます。