相互批評

窪田旦佳・深澤義人

深澤義人さんの作品−老桜と刻をめぐって− 窪田旦佳

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深澤義人:「老桜」 F80号

第4回東京自由美術展に出品された深澤さんの作品「老桜」は、深い色調と重厚な表現で印象に残る作品であった。そこには抽象や具象を越えた、作品としてののびやかな絵画空間と存在感があった。

「老桜」のタイトルがついた作品は、これまでにも何点か見せてもらっているが、なぜ桜なのか、なぜ「老桜」なのか、その愚問を考えて見ることによって、深澤作品の内容や意図されていることがより深く理解できるのではないかと思われる。

桜は日本人にとって格別に意味をもつ花であり樹木である。古来、文人たちは、ハナといえばサクラを指すぐらいに詩歌や文章の中でサクラを愛でてきた。江戸時代の庶民も、上野の桜や飛鳥山の桜を愛し、春になると花見の名所として現代でも大いににぎわっている。深澤さんの住まいは、この上野公園から飛鳥山へ向かう途中の谷中にある。毎年桜の季節には桜の花を存分に観賞され、楽しんでおられることであろう。しかし深澤さんが桜の花そのものを描いた作品を私は知らない。桜の花ではなく、桜の樹木、それも老木である「老桜」がモチーフになっている。

一般に花見を楽しむ人達は、桜の花の繊細さや、淡い色彩を好むようである。花のはかなさ、美しさと、そのいのちの短さ、散りゆく花びらの無常感などが、日本人のメンタリティと合致し、その感性を育んできたようである。その散りぎわのいさぎよさを散華と称して、戦時中は特攻精神と結びつけて賞揚してきた歴史もある。

深澤さんは桜の刹那的なはなやかさではなく、老桜の根幹に着目して、永い年月を刻印している老いた樹の力強く大地に張った根や、太い幹、大きくのびた枝などを表現することに、制作の意図を見出しているようである。

2012年の深澤さんの個展で「老桜」を前にしたとき、この樹のモデルがあると聞き、谷中霊園にその樹を見につれていってもらった。初冬の小雨の降る日であったが、その「老桜」の太い幹は黒々と光っていた。永い歳月の四季折々の変化を経て、今ここに在る大樹の存在感は圧倒的なリアリティをもってせまって来る。

谷中霊園は明治7年(1875年)に開業されたそうで、それ以来約160年の間には関東大震災や、東京大空襲を経て今日に至っている。そうした大災害の刻んだ傷痕は大樹のいたるところに残っている。そうした傷痕を含めた大樹のもつエネルギー、時を刻み、風雪に耐えながら今ここにある存在感が、深澤さんの制作欲の源泉になっているように思われる。桜にまつわるさまざまな情緒やエピソード、そこに刻まれた時の移り変わりを大きく包括してしまう「老桜」のエネルギーは、涌き出る泉のように新鮮な深澤作品の源泉でもある。

窪田旦佳氏の世界 深澤義人

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窪田旦佳:「鎮魂・新生」120F

東京都美術館で、第4回東京・自由美術展が、5月22日〜30日迄開かれた。又、それとほぼ同時期、ベストセレクション展も開かれ緊張感と、よい時間の流れの内に会は終了した。

第3室に窪田氏の作品、題名、集う、100号F横が展示されていました。

骨格のある人物像、力強い線、そして、赤、青、黄色の明るくエネルギッシュな、顔の表情、悩み、苦しみ、希望を内包する者達の、喜びの空間表現、奥深さを感じさせられると共に、明るい画面が共生の効果を、かもし出しており、精神的な厚みと、力強さを感じました。

窪田氏のこれ迄の自由美術本展出品作のテーマ(画題)を記してみると、次の様な作品があります。(2009年〜2014年)人の行方(73回)、共生の空(74回展)、鎮魂、新生(3、11のレクイエム、75回展)、惨禍を超えて(76回展)、生き抜く(77回展)、再会(78回展)、又、東京、自由美術展へは、列、(第3回)、などがある。

以上の様な複雑な社会的テーマを画題とし、生命感の表出、現実社会の動静、自己精神の内部と戦う姿勢などを、生きることの中心に据え、人間を始めとして、犬、鳥、カエル、共に命あるものを優しい眼差しの中に置き、画題の設定をしている。重く深く生きる為の永遠のテーマでしょうか。赤、青、黄色の鮮烈な色彩感覚、力強い線と、単純化した造形的表現(触知的表現)、窪田氏の絵画様式を感じます。

今から3年程前、銀座8丁目、博品館の近くで風景画の個展をされ、その時の絵が今でも思い出されます。画廊の名は、美庵、内部の壁面に変化があり、小品展にはぴったりの画廊でした。出品作品、油彩風景画、40号2点、12号、其の他、小品含め16点でした。

力強い線で、遠近法をしっかりと効かせた構成、赤、青、黄色、3原色が鮮烈、イリュージョン的、要素、表現ではなく、触知的造形表現、自然のリアリティーを内包した明るくモダンな作品に魅了されました。窪田氏のぶれない方向と表現を脳裏に描き乍ら……。