竹永亜矢「自作について」

自由美術本展2014_img_27.jpg現在、彫刻制作と同時に、短期大学保育科にお いて、美術表現分野を担当し、授業やゼミで、学 生と共に塑造制作に取り組んでいる。

私が勤める近畿大学九州短期大学は、昭和56 年より、美術担当者として彫刻家の原田新八郎氏 (1916 〜1989)が就任後、現在に至るまで、歴代、 彫刻出身者が学生の指導に当たって来た。

その為、充実した塑造制作施設と、良質の木節 粘土が代々指導者に受け継がれており、塑造研究 に取り組める環境が整っている。

その様な環境のもと、授業では、幼稚園以来、 初めて粘土を触るような未経験者から、ゼミ生の 研究に至るまで、粘土に触れ、制作する塑造課題 を積極的に取り入れている。

20 歳前後の学生たちは、天然素材に触れる経 験も少なく、初めて触る粘土の感覚に最初は戸惑 う場合も多いが、粘土を体感するうちに夢中に なって取り組みだす。

粘土による造形活動は、素材に触れた時の反応 や、制作に対する熱意や感動がダイレクトに伝わ り、作者の個性や感性が表現される。その事から、 天然素材である粘土を使った遊びや造形活動は、 フィンガーペインティングを活用した心理療法同 様の効果を持ち、心を癒し、活性化させ、あらゆ る人間の造形本能を刺激する活動である事を実感 している。

現在、短大での指導の他、大学の芸術学部でも 粘土による造形表現を担当し、彫刻の基礎学習と して、首、胸像、等身裸婦像の制作指導にあたっ ている。塑造の指導では、学生の作品に手を入れ る事もあるが、作者の個性が素直に反映される塑 造に於いて、その行為は非常に神経を使う。言葉 だけでは伝わらない、立体表現の指導方法の一つ であるが、個々の作品を尊重し、学生と一緒に同 じ課題を制作する事にしている。

有言実行、学生より早く、良い結果を出さなけ れば学生の参考にはならないが、その緊張感の中 での塑造制作は塑造研究の一環として、制作と指 導両面で興味深い結果を生んでいる。

20 分4ポーズで首1本を制作し、壊してはま た作るを繰り返し、学生が一体制作する間に、何 体も制作する。やり直しが何度でも可能な塑造の 自由さを伝える為、デッサンするように、気負わ ず取り組む。長時間かけて制作する意味や目的、 即興的に制作する事で生まれる効果や作品の良さ など、学生は自分の作品制作の傍ら、目の端にで もその記憶があれば、何か伝わるのではないかと いう期待を込めて、毎回、一緒に汗を流す。

効率よく結果を出す事が優先される現代におい て、彫刻制作は、一見無駄な肉体労働に見え、泥 臭く、時代遅れな世界と嫌がられるが、その作業 工程すべてに意味があり、労働の中で、素材と対 話し、彫刻とは何か問いかけながら、おぼろげで 奥深く、見えそうで見えない芸術の本質を探究す る。

同じ道を歩む者として、学生と一緒に、モデル と作品に向き合い、集中して取り組んでいると、 アトリエ全体が真剣な空気と緊張感に包まれた制 作現場となる。

学生との1〜2年の短い接点の中で、基礎学習 としての塑造から、各自の表現活動の研究考察へ と、学生が自分の作品世界を広げるきっかけとな る授業の実践と、卒業後、いつでも戻って来れる 学びの場を作る事が指導者としての私の課題であ る。