隈部直臣

自由美術本展2014_img_25.jpg
「これから」

2012 年に乾漆彫刻について簡単に書かせてもらいました。今回も繰り返しになりますが内容を少し変えたり補足したりして同じ様な事を書きます。少しでも乾漆彫刻に興味を感じてもらえればと思っています。

乾漆彫刻は、奈良天平時代から平安時代初期ぐらいまで行われた技法です。平安中期藤原時代以後は木造彫刻が主流となり、乾漆彫刻が姿を消していきました。しかし、近代になり乾漆彫刻が制作されるようになりました。自分が行っている乾漆彫刻は、昔の技法とは少し異なっています。石膏型乾漆です。材料は生漆、麻布、木、砥の粉、地の粉、銅線などです。粘土で原形を制作し、石膏で雌型を作ります。そのさい粘土を取り出す為に型を幾つかに分割します。雌型の内側に、離型剤を塗ります。錆漆を作ります。砥の粉、地の粉を水で耳たぶ程の固さによく混ぜて練ったものです。錆漆を石膏型の内側に塗り固まったら錆漆で麻布を貼り重ねて固めます。それを数回繰り返します。補強として龍骨のように銅線を入れ錆漆と麻布で固めます。木で芯棒を作り雌型の内側の作業を終えます。分割した石膏型を麦漆で接着します。よく固まったら石膏雌型を壊し中の乾漆像を取り出します。取り出した乾漆像の表面には離型剤が着いていますので水で洗います。取り出したままで完成させるのではなく、再度乾漆像に、錆漆でモデリングをして形を作ります。そして表面を仕上げ、拭き漆をほどこします。これで完成です。漆のもつ静けさや華やかさを感じられたら幸いです。

漆の特性は、気温や湿度によって固まりが早かったり固まらない場合があります。ある程度の温度と少し多めの湿度が必要です。

一度に厚く多量に塗ったり錆漆を盛ったりすると表面だけが乾いて固まってしまい中は、いつまでも固まりません。硬化不良を起こしてしまいます。一日、一行程ほどしか作業が出来ません。少しづつ根気良く何日もかけて行います。乾漆の作品は時間が経つと色が薄く透けたようになり下地の模様が、あらわれてきます。好みにより良しという場合もありますが漆を塗り重ね濃くしたり錆漆でモデリングしたり削ったりという具合に完成後も作品に手を加える事があります。これも漆の持っている特性を生かすという意味で作品が変化していくのも良いような気がします。

漆の持っている時間の静けさ、ゆっくりと流れて行けばと思っています。